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由井秀樹「優生保護法第4条に基づく強制不妊手術対象者の探索―1950年代北海道の保健所の事業からの検討―」『生命倫理』通巻35号、2024

 1948年に制定された優生保護法に基づき、強制的な不妊手術が実施されていました。2018年の被害者の方の提訴により、この問題に社会的な注目が集まり、2024年に最高裁判決が出され、国の責任が認められました。このような背景のもと、近年では、研究論文や調査報道、さらには国会の調査報告書などによって、優生保護法に基づいて実施されてきた強制不妊手術の実施状況が少しずつ明らかになってきましたが、実態解明はまだ緒についたばかりです。

 強制不妊手術の実務で重要な役割を果たした機関の一つが保健所です。本論文では、医療、福祉、行政から強制不妊手術の対象者として予め把握されていなかった人々を、保健所がどのように探索して強制不妊手術につなげていたのか調査し、その問題点を考察しました。そのために、1950年代の『日本公衆衛生雑誌』に掲載された北海道の保健所による、ある農村における事業を背景となる歴史資料とともに分析しました。

 その結果、保健所が行政と協力し、遺伝性の「精神薄弱」とみなされた住民を把握して接触し、大半は既に子のいる対象者の「希望」に応じ強制手術の規定(法第4条)に基づく手術につなげたことが示されました(遺伝性「精神薄弱」は、優生保護法「別表」において強制不妊手術の対象に位置づけられています)。対象者は、生殖に対する意思決定ができないわけでもなく、その一部は、用いる基準によって「精神薄弱」に含まれるか否かが異なり、知能検査を用いない簡便な方法で「精神薄弱」であると判定されました。

 この事業から、(1)既に子がいる人への不妊手術の問題、(2)形式的な「同意」や「希望」にどこまで本人の意向が反映されていたかという問題、(3)「精神薄弱」の境界域に属する人を対象にしていたという点で法適合性の判断が容易でないという問題が、他事例も含めた過去の実践を検証する際の論点として可視化されました。

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